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女は抱かれて刀になる
第4章 若紫
車を動かす前に、虎徹は一度和泉に連絡を入れてみた。しかし電話のコールは延々と鳴り続け、留守番電話に繋がるだけ。仕方なくメッセージだけ残すと、アクセルを力いっぱい踏み出した。
時計は、月曜日に向けて針を進めている。だがその足は遅く、和泉の助けにはならない。逃げるにも入り口は菊が塞いでいる。窓の外は、飛び降りて逃げるなど到底不可能な高所だった。
「和泉の行動力を少々読み違えました。まさかこの週末で、誰かのものになるなんて」
兄のように慕っていた菊が、穏やかな笑みで和泉に語りかける。三日前までは、それに疑問など抱かなかった。しかし今その声は、恐怖でしかなかった。
『やだ……やめてっ、菊さん!!』
脳内にフラッシュバックするのは、欲望の記憶。ベッドに和泉を転がし、暴れる手を片手で押さえつけて、履いていたショートパンツを脱がせようとする菊の姿だった。
「もう……あんな事する意味ないよ。ボクは処女じゃなくなった。菊さんが周りに置いてる女の人達と同じ、普通の人間になったんだ」
「つまり、この週末馬鹿な事をしたのは、誰かの手垢がつけば、僕が興味を失うと思ったからですか」