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女は抱かれて刀になる
第4章 若紫
「価値?」
すると菊はベッドに乗ると、困惑する和泉の顎を手に取る。何かを見定める視線は、和泉の体温を急速に冷やした。
「あなたのお父さんが借金の保証人になっていた話は聞きましたね。しかし、あれを最終的にどうやって返済したかは、知らないでしょう」
「それは、遺産相続を放棄したとか、そういう事じゃないの?」
「いえ、借金はモノで返してもらったんです」
和泉は父の生きていた頃の我が家を思い出してみるが、それほど価値のある物があった記憶はない。とはいえ、当時の和泉はまだ幼い少女。知らなかっただけで何かあったのかもしれない、などと考え込んでいたせいで、菊の行動を止める事が出来なかった。
「価値のあるモノとは、あなたですよ」
唇が重なる柔らかな感触を初めて和泉に与えたのは、紛れもなく菊だった。頬であればまだ親愛だと思い込めるが、唇では誤魔化せない。それは男と女が交わる瞬間だった。
「何言ってるの……全然意味分かんないよ。なんで、どうして」
「端的に言えば分かりますか? 和泉は借金の糧として、母親に売られたんですよ」
刃物で抉られるような痛みが、和泉の心に突き刺さる。しかし母の態度の変化を考えれば、それもつじつまがあった。