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Dolls…
第8章 古傷
トボトボと薄暗い廊下を歩き部屋へと急いだ。
今なら椎葉さんも追いかけて来ないし、このまま逃げられる。
玄関ホールまでの道順なら完璧に覚えてる。
覚えてるのに、頭がちゃんと回転しない…。
今、私は1人で、椎葉さんはいない。
追いかけてくる気配もない。
カッターシャツ1枚だし裸足のままだけど、逃げようと思えば逃げられる。
今更格好なんか気にしてられない。
なのに、足が動かない。
足に根っ子でも生えたかのように足取りが重い…。
椎葉さんの手に握られていた何か。
それを椎葉さんはずっと眺めていた。
それが何かなんて私には関係ないとわかっていても、椎葉さんの口からハッキリと聞かされてしまったのだ。
"お前には関係ない物だ"
「━━━━━っ!!」
椎葉さんの声が頭の中で繰り返し再生されて、脳内に響き渡る。
頭を抱えて必死に忘れようとしても、あの冷たい声はそう簡単に消えてくれない。
ここに来てから私、どうかしてる…。
あんな人の言葉に翻弄されっぱなしだ。
あんな人…
あんな人…、大嫌いだ。
壁づたいにヨロヨロ足で必死に歩いた。
俯きながら心臓の動悸と戦いながら部屋へと急いだ。
逃げ道の玄関ホールじゃなく、監獄並みの人形で溢れ返ったあの部屋に。
長い廊下を渡り歩いていると…
「あの、あなたは…?」
「……え?」
突然、薄暗い廊下に響いた私以外の女性の声。
その声に驚いてハッと顔を上げると…
何と、私の数メートル先に立ち竦む1人の女性の姿が見えた。
「あ、あの…」
この人、誰…?
いきなり"あなたは?"なんて質問されて、思わず顔を上げたはいいが、そこにいたのは全く見知らぬ女性だ。