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Dolls…
第8章 古傷
その瞳は、漆黒の闇。

深く、底がないように感じる暗闇。

まるで、空洞のように穴が空いたように見える。

その凄まじいまでの憎悪を秘めた瞳に、私の背筋が一気に凍りついた。


「奈々さん、やめ…っ」


米噛みからブチッという音が聞こえる。

髪が引きちぎられる音だ。


先程の美しい奈々さんの姿はなく、目の前の奈々さんは嫉妬と憎悪だけの悪魔に見えた。


奈々さんは気づいたんだ。

私が椎葉さんに何をされてるのか…。

椎葉さんのモデルをしてたなら奈々さんも私と同じような事をされて来たんだ。

だけど、私と違って奈々さんは椎葉さんを愛してる。

愛してる椎葉さんが私を抱いたことを許せないでいるんだ。




…グッ



奈々さんの手の力が更に強まる。

「い、痛いっ!奈々さん…っ!」

「秋人は、私のものよ…っ!」





奈々さん、それほどに椎葉さんの事が…。

確かに私は椎葉さんに抱かれたかも知れないけど。

でも、違う。



私は、椎葉さんとは何の関係もない。

私は椎葉さんを愛してなんかいない。

況してや恋人なんかでもない。

好きで抱かれてるんじゃない…っ。

私は、椎葉さんなんか━━━━━━━━っ










「椿っ!!」


━━━━━━━━っ!?














廊下に響いた、椎葉さんの声。






その声が聞こえた瞬間、私の髪を掴む奈々さんの手の力が弱まり髪を離してくれた。

声のした方、後ろを振り返ると…





「椎葉さ…」

「秋人…」





真っ黒なカッターシャツとズボンに身を包んだ椎葉さんが私と奈々さんの方へ駆けて来るのが見えた。

さすがに上半身が裸のままじゃ寒いし、着替えたのだろう。




「奈々…、何やってんだっ!」

「秋人、私…」










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