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第8章 古傷

私と奈々さんに駆け寄った椎葉さんは、私の腕を強く引き寄せて奈々さんから私を遠ざけた。

そのまま、自分が盾になるかのように私を背後に隠してくれたが…。


「奈々、お前…」

「秋人ともう1度ちゃんと話したくて…、迷惑だってわかってるけど引き返して来たの。勝手に上がり込んでごめんなさい…」

「そんな事はどうでもいい…。お前、俺が言った言葉が理解出来なかったのか？俺はお前にはもう何の興味もない！」


先程同様に奈々さんを叱る椎葉さんの声が聞こえる。

椎葉さんと奈々さんの声を聞きながらも私の心は震えていた。



椎葉さん…、何で、私を庇うの…？

私なんかを庇ったら奈々さんが傷ついてしまう。


この状況は、椎葉さんにフラれた奈々さんが椎葉さんを忘れられなくて復縁を迫ってるっていう状況で

だけど、椎葉さんにその気は一切ない。


でも、私は椎葉さんの恋人でも何でもないんだから、私を庇うのはお門違いだ。

私はただのモデルで、体の関係はあっても愛情は一切ない。

ただ、人形作りの為だけの関係なんだから…っ。



「奈々、お前が俺をどう思うが知らない。勝手にすればいい。だが椿に手は出すな」

「━━━━━っ！」



椎葉さんの声が私の胸に突き刺さる。



やめて…っ。

私は椎葉さんのモデル。

恋人なんかじゃないのに、そんな台詞吐かないで。

庇ってくれなくてもいい…っ。


「…………っ！」

「おい、椿っ！！」


心が苦しい。

鋭利な刃物でズタズタにされたみたいに、心が引き裂かれそうになった。

これ以上ここにいたら頭が可笑しくなってしまいそうだった。

椎葉さんの背中に隠されてた私は咄嗟にその場から逃げるように駆け出してしまった。