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Dolls…
第8章 古傷


椎葉さんの声が後方から聞こえて来たけど、聞こえないふりをした。

椎葉さんの声が聞こえないように、何処へ行くわけでもなく私はただ走り出した。

さっきの余韻は消え失せて足に力が入り何と走れそうではあったけど、それでも足が縺れそうになる。


「椿…、待てってっ!」


嫌だ…。

椎葉さんの声も、奈々さんの声も、もう何も聞きたくない。

何故かはわからないけど、もうあの2人を見たくない。

ここから消えたいの…っ!


もう━━━━━━



「椿さん!」


………………っ!




走り出す私の背後から奈々さんの声が聞こえた。

私の名前を呼ぶ声。

その声にハッとして、無意識のうちに私の足が一瞬止まった。



な、奈々…さん…?






「あなたは私と同じ。いつか秋人に捨てられるわ。身も心もボロボロにされて用がなくなったら飽きられて捨てられる運命よっ!!」








━━━━━━っ!!

「奈々っ!」









恐る恐る振り返った私が見たものは、瞳に涙を溜めながら狂ったように叫ぶ奈々さんの姿。

それはまるで、壊れた人形のように、ボロボロになった姿に見えた。

「…………っ!」

その姿が、私には堪らなく恐ろしく見えた。





飽きて捨てられる…?

私もいつか奈々さんのように、ボロボロにされる…?





奈々さんを静止させる椎葉さんの声が響く中、私はそんな2人を無視して再び走り出した。





「椿っ!」

椎葉さんの声と足音が聞こえる。

私を追いかけて来てるんだ。




お願い…

私の事は放っておいて。

追いかけてこないで。

名前も呼ばないでっ!




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