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Dolls…
第8章 古傷
「椿…っ」
あれは…、奈々さんのあの姿は未来の私の姿なのだろうか?
あれが、椎葉さんを愛しすぎた女性の成の果て。
違う…っ。
私は椎葉さんの事を愛してなんかいないっ。
私は…、あんな風に狂ったりなんかしないっ!
私は違うっ!!
━━━━━━バタンッ!
奈々さんと椎葉さんの元から駆け出して、広い屋敷をあちこち走り回って、ようやくある部屋に逃げ込めた。
走り回って椎葉さんを撒こうとしたけど、大人の男性の足に敵うはずもない。
ある部屋に逃げ込んだはいいが…
ドンッ、ドンッ…
「椿、開けろっ!」
もたれたドアを外側から叩く音が聞こえる。
部屋に入って鍵をかけてドアにもたれながら息をついている。
その背後、ドア越しから聞こえる椎葉さんの声。
「椿…っ」
「奈々さんを慰めに行って下さい!」
「何を馬鹿な…っ!さっさとここを開けろ」
確かにそうだ。
椎葉さんと奈々さんの問題なのに、私が口を挟むことじゃない。
だけど、奈々さんのあの姿が瞼に焼き付いて離れない。
どれだけ椎葉さんの事を愛してるか、痛いほどにわかる。
「私は…、椎葉さんにとってただのモデルだと…、何の関係もない女だと、せめてそれだけでも奈々さんに伝えて下さい…」
「何回も言うようだが、奈々と俺は恋人でも何でもない。そこまで気を使う必要はない」
「だけど…」
例え恋人じゃなくても、奈々さんは椎葉さんの事が好きなんだ。
だから余計に私の事が憎くて、辛くて、だからあんな事を…。
それに、私だって椎葉さんの恋人なわけじゃない。
椎葉さんは私を愛してる訳じゃないし、私だって椎葉さんの事なんか…っ。
「椿っ!」
━━━━ドンッ、ドンッ
ガチャ、ガチャッ!
椎葉さんの事なんか…っ。