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Dolls…
第22章 遠い街角
椎葉さん、こんな朝早くから仕事してたんだ。
椎葉さんが作る人形は高値が付くぐらいの人気なのだから、きっと膨大な注文が入ってるのだろう。
休む暇もないんだろう。
私が出て行くこんな日まで人形を作ってるんだ…。
寂しいとかそんな事を感じず…。
忙しいから挨拶さえも拒まれてしまった。
「そう、ですか…」
椎葉さんが忙しいからと挨拶を拒んだなら私から挨拶をする必要もないだろう。
それに、またあんな冷たい目で見つめられたらきっと私は立ち直れなくなる。
椎葉さんが忙しくて帰って良かったかも知れないな。
「ま、人形にしか興味のない変人だから、あいつは」
「……はい」
安藤さんの悪態すら今の私の耳には入らない。
この屋敷を出ていこうとしてる私の足取りが徐々に重くなっていく。
長い廊下を歩き、玄関ホールについた。
ずっと逃げ出したいと思い、寸前のところまで手が届いた玄関ホール。
今日は逃走とか脱走じゃなく、堂々とこの屋敷の玄関から出て行けるんだ。
「秋人がタクシーを呼んでくれてるみたい。もう着いてると思うよ」
玄関ホールの階段を降りて、玄関のドアへ一歩一歩と近づいていく。
この玄関を出れば夢にまで見た外の世界だ。
あんなに逃げたいと思っていた外の世界。
「でも、今日はいい天気でよかった。この辺で雨が降ったらほとんど嵐だから」
安藤さんの後を付いて、徐々に玄関へ近づく。
椎葉さん…。
もう、2度と会えない…。
もう、椎葉さんに触れてもらうことも、椎葉さんの声を聞くことも、あの顔を見ることもない。
本当にもうお別れ。