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Dolls…
第26章 Dolls…
すると、椎葉さんの腕が優しく私の背中に回された。
それは、今までの強引な椎葉さんからは考えられないほど優しく、脆いガラスを扱うかのような手つき。
そして、背中に回された手は微かに震えていた。
「し、椎葉さ…?」
「振ってなんかいない」
「え…?」
椎葉さんの腕が私を椎葉さんの胸元から初めて引き離していく。
名残惜しく離れた椎葉さんの胸。
ふっと椎葉さんの顔を見上げると、椎葉さんは優しく微笑んでいた。
ふ、振ってない…?
でも、椎葉さんは私を受け入れてくれなかったし、私を安藤さんに引き渡してたし…。
「俺じゃお前を幸せにしてやれない。そう思ったから安藤さんに任せたんだ。お前には幸せになって欲しかったから…」
「私に…?」
「お前が俺を憎んでる間は俺は安心だった。でも、お前の気持ちが俺にあるとわかった瞬間から怖かった。…本当は心の底では幸せを感じてたのに」
………っ。
椎葉さんの表情がとても切なく苦しそうなものに変わっていた。
その表情を見てるだけでせっかく止まったはずの私の涙が再び溢れ出しそうになる。
あの椎葉さんがこんなに苦しんでるなんて…。
「本当は…、俺もお前が好きだったよ…」
「………え?」
椎葉さんの瞳はその場だけの慰めを言ってるようには思えなかった。
椎葉さんも私が好き…?
「だからこそ、こんな俺じゃダメだ。お前には幸せになって欲しい」
これは…、醒めない夢だ。
夢ならどうか…、どうか醒めないでいて。
もう少し、この甘い夢を見せていて…。