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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第4章  【弐】
 橘乃が嘉宣の側室となってから、五月(いつつき)。
 嘉宣の橘乃への寵愛はますます厚くなり、とどまるところを知らなかった。殿を色香で誑かす妖婦橘(たちばな)の御方(おんかた)の存在は今や、国許でも江戸表でも知らぬ者はない。
 橘乃はいつしか〝橘の御方〟と呼ばれるようになっていた。
 橘乃の居室は上屋敷の奥向きの一角に与えられている。控えの間、十畳余りある居間と続きになった寝室と三間続きになっている。控えの間というのは、橘乃に仕える侍女たちが詰める場所になる。
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