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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第3章 【壱】
彼の幼い日の記憶に、母に抱かれた自分の姿は一つとしてない。何故か、母は彼に冷淡であり続けた。
物心ついたかどうかという頑是ない年頃には、その理由が判らず、何とか母に振り向いて貰いたくて、随分と努力したものだった。庭で見つけた露草で小さな花束をこしらえてみたり、苦手な手習いを認めて貰いたい一心で頑張ったり。
それらは大人から見れば、ささやかではあったが、まだ五歳の童子には、けしてささやかではなく、むしろ労を要するものだった。