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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第5章 【参】
 橘乃は今、居室に一人座りながら、除夜の鐘に耳を傾けていた。木檜藩の上屋敷は江戸でも外れに当たる和泉橋町の一角にある。近くには黄檗宗の名刹随明寺もあることから、除夜の鐘の音がよく聞こえる。すべての罪障を滅するという鐘の音は清浄として、真冬の夜気に染み渡り、溶け込んでゆく。
 橘乃はそっと腹部に手を当てた。
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