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妖婦と呼ばれた女~哀しき恋歌~
第2章 【序章】
 橘(きつ)乃(の)とめぐり逢うまで庭など座ってゆるりと眺めたこともなかったし、また、眺めようと思ったこともなかった。彼の心はいつも己れの内側に向けられており、自分以外の存在―それがたとえ物であろうと人であろうと関係ない―に関心を払うことなどなかったのである。
 そういう意味において、橘乃は嘉宣の眼を外の世界に向けてくれたといえるだろう。
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