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【Jazz Bar『Dance』 作品メモ】
第3章 花火の夜(短編集)
だが、小鳥遊だって、恋愛経験がゼロでは無い。

真菜の言葉にフリーズしたものの、少し考えてから、思わず彼は椅子の肘掛けに手をかけて腰を浮かせた。

「ちょっと待った。真菜ちゃん、俺の内定を気にしてるのって…」

「……」

「俺が、同期の女子と、どうにかなるんじゃないかって考えてるとか?」

3秒も要らなかった。

真菜は即答する代わりにコクンと首を縦に振る。



その態度に、小鳥遊は無言で立ち上がり、素早くローテーブルを手前に引いた。

まだ時間計測しているスマートフォンを放置して、テーブルと真菜の脚の間に空間を作れば、その隙間へ移動して、足裏でテーブルを押しやる。

俯いたままの真菜の正面に回り込めば、彼は徐ろに彼女の前に片膝を立てて腰を降ろした。

「……」

真菜の視界に、小鳥遊の手が静かに入り込む。

固く握りしめていた手を撫でられて、真菜が不安そうに視線を上げると、小鳥遊は真剣な表情で小さく微笑んでいた。

「照れてたのは、俺のせい?」

「……」

その言葉に、真菜が目を離せないまま頷く。

「学生の頃より、照れる?」

「……」

再び、真菜が頷く。

「前より、意識してるから?」

「……」

再度、ごく僅かに頷いた真菜の瞳に、うっすらと涙が滲んだ。

その目尻を見つめたまま、小鳥遊が切なげに口を開く。

「ごめんね、真菜ちゃん」

「……え」

「俺、ちょっと、今日、我慢できそうにないわ」

ぽつりと呟いた小鳥遊は、はにかむように笑った後、片手を真菜の首裏に伸ばすと、素早く唇を重ねた。
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