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【Jazz Bar『Dance』 作品メモ】
第3章 花火の夜(短編集)
ヨーヨーを掌でポンポンと弾ませながら、愉しげに土手上の道を歩く詩織を、庵原も微笑んで追いかける。

少し先の階段を降りて、適当な場所で花火を楽しもうと思った矢先の出来事だった。

「きゃっ!」

「いって!!」

一瞬、河川敷に視線を反らした瞬間、目の前で詩織の身体がグラリと傾き、パシャッとヨーヨーが破裂する音がした。

咄嗟に腕を支えて転ぶのを防ぐも、ほっとする庵原の耳に、柄の悪い男の声が響いた。

「いってぇなー。どこ見て歩いてんだ、このアマ!」

「あ、……」

はっとした詩織が体勢を整えながら頭を下げる。

「ごめんなさい。よそ見をしてて」

「よそ見? こんなに人がいる所で、よそ見してたら、そりゃ人の足も踏むよなぁ」

まくし立てる男の言葉に、庵原が小さく眉を持ち上げる。

金髪の髪を刈り上げて、アロハシャツにサングラスを引っ掛けた男は、今時めずらしいくらいのチンピラ風情の悪漢といったところだ。

隣でガムを噛んでいる女は、男と詩織のやり取りに興味は無いのか、土手道から転がり落ちて壊れたヨーヨーの残骸を眺めていた。

「あの、本当に、すみません」

改めて頭を下げた詩織に、男が口を開くよりも前に、庵原が素早く声をかける。

「謝んなくていいよ、詩織ちゃん」

「……ぇ」

「あぁ?」

驚く詩織の声に被るように、男の不機嫌極まりない声が響く。

いつの間にか、土手上の狭い道は、庵原達を避けるように僅かな空間が生まれていた。

すれ違う人達は無言のまま視線を逸らしつつ足早に通り過ぎている。

「人の足踏んどきながら、謝んねーって、ナマ言ってんじゃねーぞ! おいこら!」

大声で怒鳴り散らす男に、思わず肩を震わせる詩織の前に、庵原が庇うように立ちはだかる。

正面に立てば、自分よりも、やや背の高い庵原を見上げ、男が不服そうに顔を歪めた。

甚兵衛を着た庵原は、長い金髪を縛りもせず適当に耳に引っ掛け、その耳には今日はドクロのピアスを付けている。

細い瞳は苛立ちの色に染まり、触れたら切れてしまうような、刃物のような雰囲気に、男も、隣のガム女さえも、一瞬息を飲んだ。

だが、次の瞬間―――。

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