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【Jazz Bar『Dance』 作品メモ】
第3章 花火の夜(短編集)
「ひっ……、な、なんだよ!」

ばっと動いた庵原に、思わず男が身体をビクッと震わせるも、庵原は誰に危害を加えることなく、ただ、頭を下げただけだった。

「すみませんでした」

「は、…はぁ?」

下げた頭を上げながら、狼狽する男に対し、庵原が口を開く。

「俺が、ちゃんと前に気をつけてれば、こんな事故も起きませんでした」

「な、…に言って」

「ツレの女一人くらい、守れなきゃ、男じゃねーし。……申し訳ない」

「…て、てめぇ、……そんなこと言ったってなぁ!」

虚を突かれて口ごもっていた男が、庵原の言い分に更に噛み付こうとするも、意外にもガム女が男の腕に腕を回して引っ張った。

「もう、別にいいじゃん、かーくん。そんなに足痛くないんでしょ?」

くちゃくちゃと音を立てながらも、面倒くさそうに言えば、庵原を見て一瞬、ガム女は笑う。

「こういう男には勝てないって。めんどーだから、早く花火の場所取りしよーよ」

「ちょ、待て! ひろみ、引っ張んな! てめぇ!」

ぐいぐいと引っ張るガム女に、チンピラもどきが半ば強制的に土手を滑らされて行く。

意外な展開に、庵原さえも口を開ける中、はっと我に返った詩織が「ごめんなさい」と庵原に声をかけた。

「だから、謝んないでいいって……」

苦笑しながら振り返った庵原は、詩織の異変に気付き視線を足元に降ろす。

「捻った?」

申し訳無さそうに視線を伏せて頷く詩織は、左足だけで立っている。

一瞬しゃがみこんで確認すれば、右の足首が少し腫れているように感じる。

「車道までは、戻れる?」

「大丈夫」



足を庇いながら下駄で歩く詩織に合わせ、ゆっくり道路まで戻ると、ガードレールに詩織を腰掛けさせ、庵原は一度、土手道へ戻った。



暫くして、詩織の前に再び姿を表した庵原は、手にしていた氷袋を詩織に持たせる。

「つかまって」

「え?」

そのまま、浴衣姿の詩織を抱き上げると、彼は早足で車道沿いの道を歩きだした。

「い、庵原さん?」

「予定変更。ちょっと花火小さくなっちゃうけど、見れるところ、あるから」

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