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【Jazz Bar『Dance』 作品メモ】
第3章 花火の夜(短編集)
庵原が詩織を連れてきたのは、川べりから少し離れた、こじんまりした神社だった。

いや、神社と言えるかも曖昧な、そこは、小さな社と、砂利も敷かれていない境内だけの、不思議な場所だ。

急な斜面に設けられた石の階段を上がっていくと、地元の人間しか知らないのだろう、3畳程の空間が、そこにはあった。

案の定、家族連れが1組、腰までの柵に寄り添って川の辺りを眺めていたが、他には誰もいない。

川から少し離れている点と、神社という場所柄、そして階段をあがる手間のせいか、他に人が来る気配も無かった。



「……ふぅ」

流石に人を抱えて、何十段も階段をあがるのは楽では無い。

目的地までたどり着くと、土を踏みしめながら、庵原は小さな境内の奥にあるベンチに詩織を腰掛けさせた。

「ごめん、重かったでしょ」

「まぁね。……氷、貸して」

笑いながら、庵原は詩織の前に跪くと、氷の袋を詩織の足首に当てる。

「んっ……」

ヒヤリとした感覚に、小さく声を上げる詩織を見上げれば、「少し我慢して」と声をかけ二重になっていた氷の袋を器用に解き、ビニール袋で詩織の脚に氷を固定する。

―――ドン。

庵原が作業を終える直前、最初の花火が打ち上がった。

その音に、笑みを浮かべながら、庵原が立ち上がり、詩織の隣に腰を降ろす。

柵に立っている家族のシルエット越しに、欠けた花火が見える。

川辺で綺麗な円を見ようと思っていたが、これもこれで、悪くない。

が、庵原達に気付いたのか、家族連れの母親が振り返り、柵前に膝立ちになると、子供達と一緒に目線を下げて花火を鑑賞し始めた。

「……」

一瞬目があった瞬間、庵原が笑って会釈を送る。

隣を見れば、詩織も微笑んで頭を下げていた。

夜空が燃えていく。

大輪の花が次々に咲くのを、皆、ただ、うっとりと眺めていた―――。

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