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【Jazz Bar『Dance』 作品メモ】
第3章 花火の夜(短編集)
花火が終わって、小さな高台から人がいなくなっても、二人は静かに夜空を眺めてベンチに腰掛けていた。

主役が消えて、黒一面に彩られた夜空は、どこか寂しくも見える。

まだ僅かに残る夏の名残りのせいか、庵原は左腕をベンチの背もたれに回しているが、詩織を抱き寄せてはいない。

詩織も、隣の庵原に寄りかかるわけでもなく、川向こうの家々の灯りを、ただじっと、眺めていた。

BARでは快活で笑顔を絶やさない詩織だが、時折、今のように、ふっと物思いに耽る時がある。

とはいえ、庵原の傍で言葉を失うことは珍しい。

(……)

この変化も、少しずつ縮まってきた距離のせいなのかもしれない。

自分の前で気を抜ける時間が増えているのだとしたら、この変化も好ましいことかもしれないと、庵原は、静かに考えていた。





が―――、詩織が徐ろに唇を開くと、庵原は意外な言葉を耳にする。





「庵原さんは、……私のこと、ずる賢い女だって、思わないの?」

「……、……なんで?」





唐突な問いに視線を彼女に向けるも、近すぎる距離では表情も窺い知れない。

ただ、湿った風が吹き抜ける中、詩織の前髪が揺れているのが見えるだけだ。





「そんな風に、思ったこと無いよ」





静寂の中、暫く考えた末、視線を川に戻しながら、庵原は答えた。

夜の川は、黒く濁って見えて、どことなく恐ろしく見える。

底が見えないし、流れが見えない分、危うい印象ばかりが増幅されて感じられる。






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