この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
【Jazz Bar『Dance』 作品メモ】
第3章 花火の夜(短編集)
花火が終わって、小さな高台から人がいなくなっても、二人は静かに夜空を眺めてベンチに腰掛けていた。
主役が消えて、黒一面に彩られた夜空は、どこか寂しくも見える。
まだ僅かに残る夏の名残りのせいか、庵原は左腕をベンチの背もたれに回しているが、詩織を抱き寄せてはいない。
詩織も、隣の庵原に寄りかかるわけでもなく、川向こうの家々の灯りを、ただじっと、眺めていた。
BARでは快活で笑顔を絶やさない詩織だが、時折、今のように、ふっと物思いに耽る時がある。
とはいえ、庵原の傍で言葉を失うことは珍しい。
(……)
この変化も、少しずつ縮まってきた距離のせいなのかもしれない。
自分の前で気を抜ける時間が増えているのだとしたら、この変化も好ましいことかもしれないと、庵原は、静かに考えていた。
が―――、詩織が徐ろに唇を開くと、庵原は意外な言葉を耳にする。
「庵原さんは、……私のこと、ずる賢い女だって、思わないの?」
「……、……なんで?」
唐突な問いに視線を彼女に向けるも、近すぎる距離では表情も窺い知れない。
ただ、湿った風が吹き抜ける中、詩織の前髪が揺れているのが見えるだけだ。
「そんな風に、思ったこと無いよ」
静寂の中、暫く考えた末、視線を川に戻しながら、庵原は答えた。
夜の川は、黒く濁って見えて、どことなく恐ろしく見える。
底が見えないし、流れが見えない分、危うい印象ばかりが増幅されて感じられる。
主役が消えて、黒一面に彩られた夜空は、どこか寂しくも見える。
まだ僅かに残る夏の名残りのせいか、庵原は左腕をベンチの背もたれに回しているが、詩織を抱き寄せてはいない。
詩織も、隣の庵原に寄りかかるわけでもなく、川向こうの家々の灯りを、ただじっと、眺めていた。
BARでは快活で笑顔を絶やさない詩織だが、時折、今のように、ふっと物思いに耽る時がある。
とはいえ、庵原の傍で言葉を失うことは珍しい。
(……)
この変化も、少しずつ縮まってきた距離のせいなのかもしれない。
自分の前で気を抜ける時間が増えているのだとしたら、この変化も好ましいことかもしれないと、庵原は、静かに考えていた。
が―――、詩織が徐ろに唇を開くと、庵原は意外な言葉を耳にする。
「庵原さんは、……私のこと、ずる賢い女だって、思わないの?」
「……、……なんで?」
唐突な問いに視線を彼女に向けるも、近すぎる距離では表情も窺い知れない。
ただ、湿った風が吹き抜ける中、詩織の前髪が揺れているのが見えるだけだ。
「そんな風に、思ったこと無いよ」
静寂の中、暫く考えた末、視線を川に戻しながら、庵原は答えた。
夜の川は、黒く濁って見えて、どことなく恐ろしく見える。
底が見えないし、流れが見えない分、危うい印象ばかりが増幅されて感じられる。