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夢見桜~ゆめみざくら~
第1章 夢見桜
 吟は小首を傾げて光円を見つめた。
「そなたを城に召し上げたいと藩主の高友(たかとも)公おん直々のお達しじゃ」
 刹那、吟はその言葉の意味を計りかねた。
「庵主さま、それは、どういう―?」
 光円は痛みに耐えるような表情で言った。
「高友公がそなたをお側へとお望みなのです」 俗世とのえにしを絶ってはや五十年近くの星霜を生きてきた光円にとって、藩主よりのその命は聞くのすら厭わしいようにさえ思えたのだ。それを娘とも思い、一人前の尼僧となるべく育て上げてきた吟に告げねばならぬとは皮肉なことであった。だが、その光円以上に、無垢で世俗のことは何も知らない吟である。
「吟、そなたを側室として召し上げたいと殿が仰せなのじゃ」
 最後の台詞で、漸く吟にも事の次第が判った。
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