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夢見桜~ゆめみざくら~
第2章 哀しい現実
この道は真っ直ぐな一本道のはずである。だが、霧のために道を外れ、山の中に踏み入ってしまったのだろうか。吟は途方に暮れて、眼を凝らしてみたけれど、前方は白い霧の海がひろがるばかりだ。
と、突如、白い海の中で声が響いた。
「お吟」
 吟は眼を見開いた。この声は―。
「一馬さまッ」
 吟は泣きそうな表情で叫んだ。ほどなく霧をかき分けて人影が現れた。やはり、一馬であった。安堵のあまり、吟の眼に大粒の涙が溢れた。
「一馬さま」
 思わず縋るような眼で見上げる吟から何故か一瞬、一馬が眼を逸らす。
「助かりました。急に靄が出てきてしまって、どうやら道を誤ったのではないかと慌てていたところでございました」
 一馬が漸く吟を見た。
「大方、この山道を通ると思うて、途中で待っていたのだ。後をつけてみて、良かった」
 霧のせいで、一馬の表情は定かには判らない。吟は地獄で仏にめぐり逢ったような想いであった。
「これからどこへゆくつもりなのだ?」
 一馬の問いに、吟はうつむいた。
「判りません。京の都に母の弟―叔父がいます。幼い時分に逢ったきりですが、医者をしていると聞きました。とりあえず、叔父を訪ねてみようと思います」
 母の末の弟は長兄の晃吉と歳はさほど違わない。村を離れ、一人前の医者になるための勉強をしに都へ出ていったきり、帰ってはこなかった。幼い日の記憶では、晃吉とよく似た雰囲気の、気さくで優しい男性(ひと)だったような気がする。頼るところと言えば、そこくらいしか思い浮かばなかった。
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