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夢見桜~ゆめみざくら~
第2章 哀しい現実
いかほど走ったであろうか。四半刻も経たぬ間に、あれほど濃く漂っていた靄も晴れ、辺りは見慣れない景色がひろがっていた。峠の下り道らしく、道に沿って竹林が並んでいる。藍色の空に新月が浮かんでいて、緑濃い竹の群れを照らしている様は、どこか現ならぬ世界を思わせる。
吟はふと違和感を感じた。この峠道は吟たちが馬で駆けてきた山道を抜けた、確か城下へ出る道筋になる。
「一馬さま、これは、どういうことにございますか?」
幾分声に咎めるような響きがこもったのは、この場合致し方なかった。一馬は確かに吟を京へ至る西の道まで送り届けけると言ったはず。なのに、この峠道はその反対側の東の道であり、京の方角とは正反対だ。
「一馬さま?」
声高く呼んだ時、ふと一馬が吟を見た。見上げる一馬の貌を月明かりが蒼白く浮かび上がらせている。ふいに、吟は一馬が全く見知らぬ別人のように思えた。酷薄とも思える冷たい眼差しで吟を見下ろすその様に、吟は恐怖を感じた。
いつしか吟のか細い身体に一馬の腕が回っていた。
「降ろして、降ろして下さい」
吟は懸命に一馬の腕から逃れようとする。だが、一馬は圧倒的な力で吟を押さえ込んでいた。
「暴れるな」
それでも、吟は渾身の力で抗い、馬を下りようとする。一馬が薄く笑った。
「あまり暴れると、気絶させるぞ。それとも、このまま、ここで抱かれたいのか?」
「―?」
吟は咄嗟には一馬の言葉の意味を理解できなかった。
―なに、一馬さまが何故、どうして?
愕きが吟を混乱させた。
吟はふと違和感を感じた。この峠道は吟たちが馬で駆けてきた山道を抜けた、確か城下へ出る道筋になる。
「一馬さま、これは、どういうことにございますか?」
幾分声に咎めるような響きがこもったのは、この場合致し方なかった。一馬は確かに吟を京へ至る西の道まで送り届けけると言ったはず。なのに、この峠道はその反対側の東の道であり、京の方角とは正反対だ。
「一馬さま?」
声高く呼んだ時、ふと一馬が吟を見た。見上げる一馬の貌を月明かりが蒼白く浮かび上がらせている。ふいに、吟は一馬が全く見知らぬ別人のように思えた。酷薄とも思える冷たい眼差しで吟を見下ろすその様に、吟は恐怖を感じた。
いつしか吟のか細い身体に一馬の腕が回っていた。
「降ろして、降ろして下さい」
吟は懸命に一馬の腕から逃れようとする。だが、一馬は圧倒的な力で吟を押さえ込んでいた。
「暴れるな」
それでも、吟は渾身の力で抗い、馬を下りようとする。一馬が薄く笑った。
「あまり暴れると、気絶させるぞ。それとも、このまま、ここで抱かれたいのか?」
「―?」
吟は咄嗟には一馬の言葉の意味を理解できなかった。
―なに、一馬さまが何故、どうして?
愕きが吟を混乱させた。