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夢見桜~ゆめみざくら~
第2章 哀しい現実
「このまま城まで走るぞ」
 一馬が冷たい笑いを浮かべ、吟を見た。物凄い早さで走り出した馬に振り落とされまいと、吟は本能的な恐怖で思わず一馬にしがみつく。一馬は酷薄な笑いを刻むと、馬の横腹を蹴り、いっそう速度を上げた。
 吟が連れてゆかれたのは、何と立派な城であった。玄武藩の藩主京極家の居城である。馬から下りた一馬は吟を軽々と抱え、歩いた。磨き抜かれた廊下を幾度も折れ曲がり、辿り着いた部屋の中にドサリと音を立てて投げだされた。
「お吟、手荒なことはしたくないのだ。俺の言うことを大人しくきくのだ、良いな?」
 念を押すように言われ、吟は激しく首を振った。
「一馬さまがお殿さまだったのですね?」
 吟の眼に涙が溢れていた。自分は最初からこの男に騙されていたのだ。いつも温かな眼差しで見つめ、優しげな言葉をくれた男性だった。逃亡のことも信じているから、一馬だけには話したし、今夜だって、彼を信じていたからこそ本当に送ってくれるのだと馬に乗った。なのに―。
 自分は端(はな)からこの男に良いように騙されていた。やすやすと騙された自分の浅はかさを、吟は情けなく思った。
「信じていたのに」
 言葉にしたら、途端に涙が頬をすべり落ちた。
「何故、そのように俺を嫌う? 佐中一馬としてそなたと話していた時、そなたは俺に好意を持っていたのではなかったのか?」
 一馬が訊ねるのに、吟は泣きながら首を振った。
「私は一馬さまのことを兄のようにお慕いしておりました」
 刹那、一馬の表情が泣き笑いの貌に歪む。
 しばらく唇を噛みしめ、一馬が振り絞るように言った。
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