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夢見桜~ゆめみざくら~
第2章 哀しい現実
 兄のように慕っていた一馬。一馬の言うように男に対しての思慕ではなかったけれど、吟は一馬を確かに好きだった。そんな一馬に騙され城に連れ去られ、こうして陵辱されている。
 吟が大人しくなったのを諦めたと思ったのだう、一馬が顔を覗き込んだ。
「可愛い奴だ」
 また口づけを降るように落としながら、一馬は乱暴に吟の脚を開いた。
「え、何―?」
 吟は最初、彼が何をしようとしているのかさえ理解できなかった。熱い火のような塊が下半身に押し当てられるのが判り、ほどなく激痛が彼女を襲った。
「―!」
 吟はあまりの衝撃と痛みに声を上げることもできず、ただ大粒の涙を零した。
「何を―?」
 泣きながら一馬を見上げた吟に、一馬が冷たい笑いを浮かべた。
「痛むのか? だが、痛むのは最初の中だけだから、我慢しろ」
 十一の歳から尼寺で育った吟には同年齢の娘たちに比べ、そういったことに対する知識があまりに希薄だった。友達同士で異性の話について盛り上がることもなく、普通ならそういった同年代の同性の友達から仕入れる情報が乏しかったのだ。今、何も知らぬままに一馬に身体を弄り回され、吟は恐怖と混乱のただ中にいた。
 吟は今こそ漸くあの夢見桜の下で見た夢が何を意味していたかを悟った。あの夢は、黒い不気味な影に追われる不吉なものだった。そして、あの夢からめざめた時、一馬と初めてめぐり逢ったのだ。恐らく、あれは一馬との不幸な出逢いを指していたのだろう。まさか兄とも慕う一馬が吟にとって不幸をもたらす存在だとは、吟は想像さえしなかったが―。
吟を今にも呑み込もうとしていた巨大な魔物は、他ならぬ一馬だった。
―夢見桜の樹の下で見た夢は必ず現になるというのですよ。
 師匠である光円の台詞がありありと耳奥で蘇る。光円の言葉ではあったけれど、吟はその言い伝えについて半信半疑であった。だが、光円の言葉は、やはり正しかった。
 吟はとうとう、黒い魔物に囚われ、喰われてしまったのだ。
 遠くからかすかに聞こえてくるのは、梟(ふくろう)の鳴き声だろうか。京極氏のこの城は、吟が一馬と通ってきた山にほど近い。山には昔から梟が多く住んでいる。夜の底を這うような梟の鳴き声は、やけに物悲しく吟の心に響いた。

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