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夢見桜~ゆめみざくら~
第1章 夢見桜
―もっとも、私は桜の下で眠っていたわけではありませんが。
 そう前置きしてから、光円はその夢について話してくれた。吟を見かけることになった日の朝、光円は不思議な夢を見た。庭を歩いていると、桜の樹の下で泣いている一人の少女を見つけた。何故、泣いているのかと問うても、少女は何も応えず、ただ泣いているばかり。
―どこにも行くところがないの。
 ややあって、少女が涙をぬぐいながら言う。光円は少女に優しく言い聞かせるように言った。
―私と一緒にいらっしゃい。
 光円は、差し出された少女の小さな手を取り、そこで目ざめた。
 その夢の中で見たという少女が吟とそっくりの面立ちをしていたというのだ。
―私は桜の下で眠っていたわけではありませんが、その朝、夜明け前にめざめて、ふと部屋から廊下に出て桜の樹を見たのですよ。それからまた床に入って、浅い眠りに落ちました。そのときに、そなたによく似た娘を夢で見たのです。
 だから、その夢は桜が見せた予知夢のようなものではないかと思う、と、光円は真顔で言った。
 慈悲深い光円にこの寺に連れてこられてから五年、吟は毎日、掃除や洗濯、果ては三度の食事の支度まですべてを一人でこなした。小さな尼寺には吟の他には下働きもいない。吟が来る一年ほど前までは賄いの老婆が住み込んでいたというが、病を得て亡くなったそうだ。吟が来るまで、光円は一人で暮らしていたのだ。
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