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夢見桜~ゆめみざくら~
第1章 夢見桜
 小さな寺だが、帝の皇女(ひめみこ)が開基で、数代前までは代々内親王や宮家の姫宮が住職をしていた門跡寺院であったという由緒正しき寺である。それが廃寺となり、打ち捨てられ荒れ放題になっていたのを先代、つまり光円の師匠がどこからともなくやって来て寺に住み着いた。光円は先代庵主の養女となり、幼い中に引き取られ尼となるべく教えを受けたという。
 寺のそのような経緯もあってか、現在、この小さな尼寺はここ玄武の国の藩主京極家の菩提寺にもなっている。たとえ小さくとも、村人からも光円が尊崇を受けているのは、何も光円の高潔な人柄だけではなく、寺の格式もあった。
 吟は様々な雑用を一人で器用にこなしながら、光円の弟子としても将来は一人前の尼僧となるべく日々、修行に励んでいた。貧しい百姓の娘として生まれ育った吟は、ここへ来るまで読み書きも満足にできなかった。が、光円に手取り足取り教わり、今では難しい教典や書物も自在に読めるようになった。
 いつか光円のような立派な尼僧になりたいというのが吟の目標であり、夢だった。また、光円も初めは、未来のある吟をむざとこのまま尼にするのを躊躇っていたが、吟の決意が固いことを知り、吟を一人前の尼僧とするべく教え導くことに心血を注ぐようになった。
 吟は小さな欠伸を洩らした。光円の夢の話を思い出したからというわけではないけれど、午後のやわらかな陽差しを浴びている中に、吟も眠気を感じてきたのだ。修行中の身が昼寝をするなど言語道断であるが、伸び盛りの歳は睡魔には勝てない。寺の暮らしは朝は早く、労働も過酷だ。光円は優しいけれど、修行については一切手加減はしない。
 吟は桜の樹の下にゴロリと横になった。
―少しだけ。ほんの少しだけ。
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