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夢見桜~ゆめみざくら~
第3章 夜の哀しみ
 一馬は揶揄するように言うと、吟に無造作に石仏を返してよこす。最近、一馬は徐々に吟がかつて見た優しい表情を見せるようになった。初めは吟が逃げようとしたり抵抗したりすることに苛立ち、吟の身体を力づくで欲しいまにしていたのだが、この頃は吟が抵抗も止め、黙って一馬を受け容れることに安心したようだ。
 一馬に対しても心のすべてを閉ざしてしまった吟だが、石仏を彫るために庭の石が欲しいと一度だけ頼んだことがあった。
「婚礼の日取りが決まった」
「―」
 唐突な一馬の言葉に、吟がわずかに眼を見開いた。
 一馬が何か物言いたげに自分を見つめているのに気づき、吟は手をついた。
「おめでとうございまする」
 吟は心のどこかでホッとしている。一馬がどこぞの姫君を迎え、正室を持てば、もしかしたら自分を解放してくれるかもしれない。この城を出ることは無理でも、一馬の関心が吟から逸れることはあるだろう。
 そんな風に考えたのだが、吟の心を見透かしたように一馬が皮肉げに口の端を歪めた。
「自分の婚礼だというのに、他人事のような口ぶりだな」
「え―」
 吟は息を呑んだ。一馬は淡々と言った。
「今だから申すが、光円どのにそなたをくれと申し出た時、俺は側妾にと申した覚えはない。俺は最初からそなたを正式な室として―俺の妻に迎えるつもりだった。そなたは、勘違いをしていたようだったがな」
 愕きに言葉もない吟に、一馬は静かに言った。
「もっとも、俺を嫌うそなたにとっては、正室であろうが側室であろうが、たいした変わりはないのかもしれぬな」
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