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夢見桜~ゆめみざくら~
第3章 夜の哀しみ
激しい情交の後、吟は意識を失った。再びめざめたのは、既に夜明けも近い頃のことであった。一馬は吟を抱きしめたまま眠っていた。吟は自分の肩に回された一馬の手をそっと外した。起こさないように気を付けながら、上半身を起こす。むろん、二人とも裸であった。
吟は昨夜の自分の乱れ様を思いだして、両手で顔を覆った。涙が溢れ出て、白い頬を濡らす。
何ということだろう。ついに怖れていたとおりになってしまった。一馬の愛撫に吟の身体は本当に慣れきってしまったのだ。これまで何とか持ちこたえていたのに、昨夜は一馬の腕の中で狂おしいほどに乱れてしまった。 自分が見せた痴態を一馬は、どのように見ていたであろう。そう考えると、吟は恥ずかしさと絶望に気が狂いそうだった。
その時、言いようのない哀しみが吟を襲った。気持ちとは裏腹に、身体だけは一馬に馴れてゆく。それは吟にとって耐え難いことであった。吟は声を殺して泣いた。
吟が自らの生命を絶ったのは、その日の朝のことである。自分の部屋で鑿で喉を突いたのだ。その鑿は、彼女が一心に石仏を彫るのに使っていたものだった。
幸い発見が早く、手厚い治療と看護によって、一命は取り留めた。吟が意識を取り戻すまで、一馬はずっと枕辺に座った。傷のために発熱したときには、冷たい水に浸した手拭いを吟の額に乗せて、それをこまめに替えた。また、粥を食べられるようになれば、自ら木匙で粥をすくって吟の口許へと運んだ。
吟は、その日を境に、声を失った。医者の見立てでは、吟は怪我によって声を失ったのではなく、自らの心を固い殻に閉じ込めたことで一時的に話せなくなったのだった。あまりにも深い精神的衝撃が原因であると言われた。
吟は昨夜の自分の乱れ様を思いだして、両手で顔を覆った。涙が溢れ出て、白い頬を濡らす。
何ということだろう。ついに怖れていたとおりになってしまった。一馬の愛撫に吟の身体は本当に慣れきってしまったのだ。これまで何とか持ちこたえていたのに、昨夜は一馬の腕の中で狂おしいほどに乱れてしまった。 自分が見せた痴態を一馬は、どのように見ていたであろう。そう考えると、吟は恥ずかしさと絶望に気が狂いそうだった。
その時、言いようのない哀しみが吟を襲った。気持ちとは裏腹に、身体だけは一馬に馴れてゆく。それは吟にとって耐え難いことであった。吟は声を殺して泣いた。
吟が自らの生命を絶ったのは、その日の朝のことである。自分の部屋で鑿で喉を突いたのだ。その鑿は、彼女が一心に石仏を彫るのに使っていたものだった。
幸い発見が早く、手厚い治療と看護によって、一命は取り留めた。吟が意識を取り戻すまで、一馬はずっと枕辺に座った。傷のために発熱したときには、冷たい水に浸した手拭いを吟の額に乗せて、それをこまめに替えた。また、粥を食べられるようになれば、自ら木匙で粥をすくって吟の口許へと運んだ。
吟は、その日を境に、声を失った。医者の見立てでは、吟は怪我によって声を失ったのではなく、自らの心を固い殻に閉じ込めたことで一時的に話せなくなったのだった。あまりにも深い精神的衝撃が原因であると言われた。