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夢見桜~ゆめみざくら~
第3章 夜の哀しみ
 その翌日、一馬は吟を連れて城を出た。愛馬に跨り、吟を前に乗せて目指したのは、一年前、やはり吟を連れて馬で駆けたあの道、山から城下へと続く峠道であった。
 今、折しも桜の季節を迎え、見覚えのある竹林に混じり、薄紅色に包まれた樹々が見える。一馬はその中の一本の桜を指さした。
「お吟、あの桜は、そなたがいた寺の庭に似ておらぬか。確か、夢見桜と申すのであった。ほら、根許にそちの好きな花も咲いておる」
 一馬は吟の身体をそっと抱きかかえ、壊れ物を扱うように静かに降ろした。地面に降り立った吟の足許に紫の可憐な花、都忘れがひっそりと咲いている。
「先日、一人で石を捜しに参りし折、この場所を見つけたのだ。そなたを帰してやるなら、ここかしかないと思うてな」
 吟は相変わらず、感情をどこかへ置き忘れたかのように虚ろな表情で突っ立っている。
「お吟、最早、俺にしてやれるのは、これくらいしかない。そなたは、ここよりいずこへなりとも好きなところ行くが良い」
 吟は、しばらく虚ろな眼差しを周囲に向けていた。
「村へ帰るのも良い、光円のいる寺へ戻るのも良い。もう何もそなたを束縛するものはないのだ。そなたが望むなら、寺まで送り届けよう」
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