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夢見桜~ゆめみざくら~
第1章 夢見桜
「怖い夢?」
「申し訳ございませぬ。ご無礼を致しました」
 吟が深々と頭を下げると、男は笑った。
「良いのだ。それにしても、このように美しき桜の下でそのようにうなされるほど怖ろしき夢を見るとは、いかにも不似合いだな」
「―」
 吟は言葉を呑んだ。確かに、男の言うことは、もっともに思えた。夢見桜の下で見た夢は正夢になるという。そんな樹の下で、吟は何とも怖ろしい黒い影に呑み込まれそうな夢を見てしまったのだ。この夢が一体、何を意味するのか見当もつかないけれど、良い兆(きざし)を示すものだとは思いがたい。
 吟が暗澹とした想いに駆られていると、男が再び問うてきた。
「ところで、今日は光円どのはいらっしゃるだろうか」
 吟はハッとする。
「住職さまなら、只今は村まで檀家参りに出ていらっしゃって、生憎と寺にはおられませぬ」
 丁重に応えると、男は頷いた。
「そうか、お留守か」
「されど、もう四半刻もすればお戻りになられるかとは思いますので、お待ちになられますか?」
「いや」
 男は首を振った。
「今日は亡き母の墓参に来たまでのこと。もし光円どのがおわせば、ご挨拶だけでもと思うたのだが、お留守とあれば致し方ない。またの機会に致そう」
 男は独り言のように言うと、再び吟を見た。「そなたは?」
「ご住職さまにお仕えする吟と申します。只今、修行中の身にございます」
「ホウ、この寺には再々参るが、そなたに逢うたのは初めてだ」
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