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夢見桜~ゆめみざくら~
第1章 夢見桜
来客がある時、光円は吟をできるだけ表に出さぬよう配慮しているようであった。また、修行中の身であれば、むやみと人前に出るものではないと吟自身も控えている。この寺に来てもう五年にもなるというのに、吟の姿を滅多と見る者がないのはそのためであった。
「お吟は尼になるのか?」
男の問いに、吟は意気揚々と頷いた。その黒目がちの大きな双眸は、明るい希望に満ちた光に輝いている。
「はい、ご住職の光円さまのように徳のある尼僧になるべく日々精進致しておりますが、何分粗忽者にて失敗ばかりしておりまする」
「そなたは何事にも一生懸命なのだな」
男が庭に降り注ぐ春の陽差しに眼を細めた。
「まだ若い身には色々と修行中、辛きことが多かろうが、励むのだぞ」
優しい労りの込められた言葉に、吟は明るい眼で頷いた。
「ありがとうございます」
男が背を向けて、ゆっくりとした足取りで山門の方へ向けて去ってゆく。
男の優しげな眼差しは、村にいる兄たちを思い起こさせた。すぐ近くにいながら、もう五年も顔を見ることがない兄は、いつも吟を温かく見守ってくれた。吟が女衒に売られてゆく時、自分に甲斐性がないばかりに妹に辛い想いをさせると男泣きに泣いたのは、いちばん上の兄であった。
「お吟は尼になるのか?」
男の問いに、吟は意気揚々と頷いた。その黒目がちの大きな双眸は、明るい希望に満ちた光に輝いている。
「はい、ご住職の光円さまのように徳のある尼僧になるべく日々精進致しておりますが、何分粗忽者にて失敗ばかりしておりまする」
「そなたは何事にも一生懸命なのだな」
男が庭に降り注ぐ春の陽差しに眼を細めた。
「まだ若い身には色々と修行中、辛きことが多かろうが、励むのだぞ」
優しい労りの込められた言葉に、吟は明るい眼で頷いた。
「ありがとうございます」
男が背を向けて、ゆっくりとした足取りで山門の方へ向けて去ってゆく。
男の優しげな眼差しは、村にいる兄たちを思い起こさせた。すぐ近くにいながら、もう五年も顔を見ることがない兄は、いつも吟を温かく見守ってくれた。吟が女衒に売られてゆく時、自分に甲斐性がないばかりに妹に辛い想いをさせると男泣きに泣いたのは、いちばん上の兄であった。