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水蜜桃の願い
第1章 先生と彼女
――彼女、いたんだ。
そう思って。
そう思った途端に、自分の顔がまた歪むのがわかった。
「……行こ、美波」
間近まで近づいてきた舞子。
私の腕を取り、そのまま、歩き出す。
先生たちが歩いて行った方向とは逆に。
俯いたまま、ただ、私は舞子に手を引かれていた。
少し前を歩く舞子の足。
私はそれだけを見ながら、歩いた。
……あのふたりの後ろ姿が、まるでまぶたに焼き付いてしまったかのような状態のまま。
いたじゃん。先生……彼女いたんじゃん――そんな言葉ばかりが、頭の中でただ、繰り返された。
こみ上げる。
心の中だけではおさまらない感情が、一気にせり上がってきて、ふ……と、声が漏れた。
ぎゅっと握り締めた手。
その手首を掴んでいる舞子の手にも、私の変化が伝わったのか――――。
「……美波、もう少しがまん」
振り向く気配と、そうかけてくれた声。
私は下唇をぎりっと噛んだ。
それから、小さくだけど、頷いた。