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水蜜桃の願い
第1章 先生と彼女
「美波」
そして、しっかりとした声が背後からかけられた。
何も考えられずにふたりをただ見つめていた私は、それで、はっと我に返って。
「……はは、やだな、もう」
笑おうとしても、うまく顔が作れない。
ただ歪めただけに違いない表情で振り返り、舞子と視線を合わせた。
彼女は、黙って私の視線を受け止めてくれる。
真面目なその顔に、思わず、はは、と……また笑おうと試みた。
けれどやっぱりそれは、苦笑い程度にしか見えなかったと思う。
「美波――――……」
そして。
そうやって舞子が、私の名前を呼ぶから。
労るような声色で、優しく呼ぶから。
「――――っ……!」
今、目にした光景の意味が、一気に頭の中でかたちになる。
先生と歩く女性。
繋がれた手が、ふたりはただの友達程度の関係ではないことを、あらわしていた。