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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
……俺は優しくなんかない。
そう……あれは優しさなんかじゃない。
そんなんじゃなかった。
責任なんか取れないのに。
取る気もなかったのに。
求められたからと、ただそれを理由にして。
それだけじゃない。
いたずらに煽り、透子に後戻りをさせなくした。
なのにそんな俺を『優しい』と思っていただなんて────。
静かに透子の寝顔を見つめた。
その穏やかな表情が、たまらなく愛おしい。
こんな俺をどこまでも健気に想ってくれる彼女を、いつのまにかこんなにも──そう、こんなにも好きになっている。
ただの生徒のはずだった。
ただの教師のはずだった。
けれどあのとき。
歯止めとなるべきその肩書きは、一瞬にしてその効力を失った。
彼女に煽られた俺は彼女を煽り。
煽られた透子は素直に俺を求め。
そして俺はそれを受け入れた。
目を閉じて、思い出す。
今でも容易に、思い出せる。
そう……あの、記憶の中の彼女を────。