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水蜜桃の願い
第1章 先生と彼女
あの手が差し出されたのは私にじゃなかった。
私じゃない、違う女性に向かってだった。
……いいなあ、と。
本音が思わず口から出た。
ん? と。
舞子がその意味を問うてくる。
「……羨ましい。
彼女が、すっごい羨ましい」
言いながら、はあっと深く息を吐き、ティッシュで目元を押さえるようにする。
――……これって失恋したってこと?
そうとしか思えない状態なのはわかっていたけど、あえて自分にそう問いかければ、また乱れる感情。
「……ちゃんと言えばよかった」
この想いをもっと。
もっと早く先生に伝えていればよかった。
そうしたら、今ああやって先生の隣を歩いていたのはあの人じゃなくて私だったかもしれないのに。
もしかしたら、そうなっていたかもしれないのに。
今さらな『たられば』を。
後悔にはつきもののそれにまるで飲み込まれるように、私はそればかりを考えていた。思っていた。
そう……事実をいつまでも認めたくなくて。
まるでそれに抵抗するように、頭の中で、虚しい『もしも』を繰り返す。