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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
「ああ。全然気づかなかった」
それに軽く笑い返しながら、さっきの言葉を思い出す。
「……で? その彼の話?」
こくん、と頷いた彼女は詳しく話し始めた。
彼氏とは高校が別なこと。
忙しい部活に入ったらしい彼とはほとんど会えなくなってしまったこと。
4月は毎日のようにやりとりしていたメールも、いつしかそうではなくなったこと。
そして、彼と同じ高校に行った友達の話では、同じクラスの女子と親密そうにしているらしいこと────。
「……これって、私よりその子の方を好きになってるってことなのかな」
そう呟いて、またくるくるとストローを回す。
まだ子供だとばかり思っていた。
真面目な彼女からは、そういう雰囲気はまったく感じなかった。
いつも勉強熱心で明るいその子が初めて見せた、その表情。
深刻に見せなさそうに振る舞ってはいるものの、上げている口角は、無理していると感じた。
「……透子ちゃんはどうしたいの」
言葉をかけると、ん……と少し考えるようにしてから、わかんない、と呟く。
「わからない?」
繰り返せば、また頷く。
「そっか」
きっと本当にどうしたらいいかわからないんだろう。
だからこそ、聞こうと思ったのかもしれない。
同じ男の俺に、彼氏の行動の意味を教えてほしいと。