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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
指導時間が終わり、彼女の家を後にする。
駅まで送ると言ってくれた彼女の母親の言葉は、寄るところがあるからと言って丁重に断った。
歩きながら、掛けていた眼鏡を外す。
しまいながら、深く息を吐いた。
……偉そうに。
それは自分に向けての言葉だった。
人の恋愛にどうこう言えるほどの人間なのかよ、と……思わず自嘲的な笑みを漏らす。
けれど、初めて目にした彼女のあんな姿に、励ましてあげたいと思ったその感情も決して嘘ではなかったと思う。
……ほんと、まっすぐな子だよな。
俺はあんなふうに誰かを想ったことなんかない。
これからもきっとないんだろう。
そんなふうに思えば、生徒の鑑なその子の悩みを素直に応援してやりたい気分にもなる。
「……なんか先生じゃん、俺」
思わず口にして、は……とまた、そんな自分に向けて笑った。