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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
泣き出した様子の彼女に少なからず動揺しながらも、頭を撫で、頑張ったね、と呟いた。
こくんと頷いた彼女は少しそのままでいたけれど、机の上のティッシュの箱を差し出すと、数枚とって思いっきり鼻をかんだ。
もう一度溜め息をつき、恥ずかしそうに俺を上目使いで見て、へへ……泣いちゃった……と笑う。
赤くなっている目と鼻。
頷いて、その肩をぽんぽんと軽く叩いた。
「頑張った」
そう再び伝えれば、彼女もまた、うん……と頷く。
「……でも私、別れたいって言われたとき泣かなかったのに」
自分でも戸惑っているかのような呟きに
「そうなんだ?」
静かに返せば、また、頷く。
「だから今……ちょっと自分でもびっくりした。
……あ、続きやるね!」
へへ、と照れくさいのか急にそう宣言して、視線を机の上の問題へと戻した彼女に
「うん。あと5分ね」
俺も何でもないように笑いながら、わざと短い時間を告げる。
「えー! 無理ー!!」
「ははっ、冗談だって!」
俺の言葉に、もう! と返し、あとは黙々と問題に取りかかり始めた彼女を見て、自分もさっきの続きをするかのようにテキストを再度開く。
……けれど中身なんて正直頭に入ってこなかった。