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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
だめだったか……と、彼女の終わってしまったらしい恋を思い、同時に、こんないい子なのにな、と相手の男に対する好意的とは言えない感情が沸き上がってきたことに自分でも戸惑いを覚える。
……まあ、一年以上も指導してきてる子だしな。
言葉にするしないは別として、まったく知らない相手より彼女の気持ちに寄り添ってしまうのは人として当然だろう──その戸惑いはそうやってすぐに打ち消したけど。
うまくいけばとは思ってたけど、会えないのはやっぱり難しいってことか──経験のないそんな状況に、ふうん……と納得しかけていたときだった。
「……ありがとね、先生」
彼女が、問題集から目を離さないままで不意に呟く。
「俺は何もしてないよ」
咄嗟に返せば、その横顔──口元が、笑みを作った。
「……何笑ってんの」
「笑ってないよ?」
突っ込めば間髪いれずに返され、今度はふふっと笑い声まで。
「……やっぱ笑ってんじゃん」
彼女は俺のそんな指摘を笑顔でスルーして、再び問題に集中し出したようだった。
その様子を俺は苦笑いをしながら少し見つめ、それから手元のテキストに今度こそ集中した。