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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
「ね、いつから付き合ってるの?」
「ん?」
「だから、彼女と」
好奇心でいっぱいという言葉がぴったりの表情で、詳しく聞きたがるその様子。
「……教えない」
その関係を説明するのも面倒だった。
だからそう言って逃げようとすれば、ええ~と不満の声を上げられる。
それには苦笑いと、コーヒーを口にする動作で返し、話すつもりはないというスタンスを貫いた。
もう、と笑いながらテーブルの上のチョコレートに手を伸ばし、口にしながら、先生の意地悪、と舌ったらずな口調で抗議してくる彼女。
「そんなことより子供は勉強に専念!」
そう休憩の終わりを告げれば、はあい、としぶしぶながら従う。
隣に座り、指導を再開した。
彼女に苦手なところを聞き、そこを重点的に教える。
試しに答えさせた問題が当たっていたので、もう数問、時間を与えて解かせることにした。
はーい、と素直に問題に向き合う彼女。
その姿を見ながら、俺はさっきかけられた言葉を考えていた。
『彼女』ね……。
頭の中でその言葉がずっと回っている。
もうそういう存在は何年もないな、と。
そしてこれからもたぶん、ないままだろうなと────。