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水蜜桃の願い
第3章  記憶の中の彼女


その後も、俺はいつものように彼女の家に通った。
毎週土曜の午前中。
家庭教師として、自分の仕事をするために。


けれど。
その日は『いつも』とは違っていた。


玄関には笑顔の彼女だけ。
いつも一緒に出迎えてくれていた母親の姿がない。

彼女が口にした、家に誰もいない理由。
どうしようかと──少し悩んだ。
中に入るのを躊躇っている俺の様子に彼女は気づいたのか


「……先生、お母さんいないから帰るとか言わないよね?」


そう言って、俺の表情を心配そうに窺ってくる。


俺は基本、男の生徒しか持たない。
異性だと、万が一……ということもないとは言えないからか、基本的に親の方も同性の教師を希望する傾向にある。
けれどこの家の両親は、兄を教えていたときから俺を信頼してくれていて。
彼女の、知らない人より知っている人に教わりたい、という希望もあり、例外的に彼女にも教えるようになったのだ。


俺を見る彼女の目。
何を懸念されているのかなんてさっぱり気づいていないかのようなその目。


「……言わないよ」


ぽん、とその頭を撫でれば、ぱあっと笑顔に変わる。
苦笑いしながら家にあがった。



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