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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
俺はバイト先の信用を失うような、そんなばかな真似はしない。するつもりもない。
そう、だから彼女と今日はこの家にふたりきりでも、何も問題なんかない。
いつもと同じように指導して、時間がきたら帰るだけ。
ただ、それだけのことだった。
「お母さんには、今日の指導内容を次回まとめて報告するっていう形で大丈夫かな?」
彼女の後をついて階段を上りながら声をかければ、……そのことなんだけどね、と階段を上りきったときに彼女が振り向いた。
「先生、今日は勉強お休みじゃだめ?」
「え?」
「先生の楽しい話いっぱい聞きたいなって……だって休憩のときだけじゃ短すぎるんだもん。
あ、もちろんあとでひとりでちゃんと自学するから!
ねえ、だからいいでしょ?」
そんなわがままを珍しく口にする。
今日は母親がいないということで、その解放感に浸りたいとでも思ったのか。
いつも真面目に勉強している彼女の、ここ最近の成績の伸び具合はかなりのものだった。
一度ぐらいいいか──そんな気にもなる。
「……しょうがないな。今日は特別だよ?」
彼女の頭を撫でながら笑いかければ、やったあ! と跳び跳ねんばかりに喜びを素直に表してきた。