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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
……ったく。可愛いなあ。
子供のような無邪気な仕草にそんなことを思っていたら、途端にくるりと顔を正面に戻した彼女。
少し気になったものの、特に追及するようなことはせず、彼女についていった。
部屋に入り、今日は使わないであろうテキストや問題集の入った鞄をドア近くに置く。
……さて。
どんな話を求められるのやら──だな。
そう思いながら眼鏡を外したときだった。
「先生……それ」
声を掛けられ彼女を見ると、凝視、という表現を使うのがぴったりなほど、大きい目をさらに大きくさせて手元の眼鏡を見ている。
ああ……と、その視線の意味にすぐに気づき
「先生やるときだけかけてんの。
気持ち切り替えるためにね」
答えれば、そうだったんだ……と彼女は微かな呟きを漏らす。
はっ、と何かに気づいたかのようにその視線は机へと移り、今日は必要のなくなったテキストを棚へと片付け始めた。
なんだかそわそわしてるな……とその様子を見ていたら、彼女は突然『あっ』と声を上げて、ちょっと待ってて、と言い残しおむもろに部屋を出ていく。
どこか浮き足立っているように見える彼女の様子。
そりゃあ勉強より、おしゃべりする方がよっぽど楽しいだろうしな──そう思い、その様子にも俺はさほど注意を払うことはなかった。