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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
やがて戻ってきた彼女の手には皿に並べた桃が丸ごと3個。
毎年いただくそれを目にし、もうそんな季節なんだなと感じた。
どうぞ、と重ねていた皿の1枚に桃を2個乗せ、俺の前に置く。
勧められるがままにひとつ手に取ったものの。
「丸ごとが美味しいんだよ?」
いつもと違い切り分けられてはいない状態に少し躊躇えばそう返され、見ると彼女は皮をつまみ、そのままするりと剥いていく。
「へえ……」
試してみると、よく熟しているその桃は芳醇な香りを漂わせながらその姿を容易にあらわにし出した。
あっという間に剥き終わり、いただきます、と呟いてかぶりつく。
甘い香りと、とろりとした果肉。
溢れる果汁が手のひらを濡らし、垂れないようにと吸う。
けれどまたひとくちかぶりついたとき、それは腕にまで。
慌てて舌で舐めとった。
そのとき、視界の端に彼女が入る。
桃を手に黙ったままの彼女に、ん? と視線を流した。
俺を見ていたらしい彼女と目が合えば、急にぶんぶんと首を振り、ちょっとトイレに──そう言って桃を皿に戻し、慌てて部屋から出ていった。
「……何……?」
姿が消えたドアをしばらく見つめ、けれどまた果汁が腕を伝う感覚に慌てて意識をそっちに戻す。