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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
ふたつ食べ終え、手をティッシュで拭った。
けれど果汁でひどく濡れた左手のべたつきは、それでは取りきれない。
やがて、なぜかおそるおそるといった様子で戻ってきた彼女。
おしぼりを願うとすぐに持ってきてくれたが、受けとるときにまだ掴んでいなかった状態で離され、そのまま床に落ちてしまった。
「ごめんなさい!」
ただおしぼりを落としただけなのに、なぜか彼女はひどく慌てた。
新しいの持ってくる──すぐにしゃがみこみ、それを拾おうとする。
何度もあちこちを行ったり来たりさせるのも悪いな……と、手を洗ってくるから洗面所を貸してと告げた。
どうぞと許可され、ありがとう──そう言って立ち上がったときだった。
同じように俯きながら立ち上がった彼女の顔。
ん? と覗きこむようにすれば、なぜか真っ赤で。
「どうしたの?」
そう聞けば、なんでもない、と両手を振って否定する。
でももし本当に熱があったら──今この家には家族は誰もいないことを思い出し、だったら俺がちゃんと対処すべきだよな……と、彼女の拒否など気にせずに右手をその額にあてた。