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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
「……っ、だめ……!」
なのに、切羽詰まったようなそんな言葉が聞こえたかと思ったら、立ち上がろうとした腕が急に掴まれる。
「やだ!」
俺を見る、その必死な表情は泣き顔で。
けれど赤らんだ頬がそれだけではない何かを感じさせた。
今まで見たことのない生徒のそんな顔。
真正面から見てしまい、思わずごくりと喉が鳴った。
「だって今日……何だかおかしいでしょ」
その動揺を隠しながら言葉を発する。
優しく熱心で生徒思いの『先生』を演じる余裕が正直そのときの俺にはなかった。
──この展開はまずい。
頭の中で警鐘が鳴っている。
いつのまにか、もう片方の腕も掴まれていた。
ぐい、と引かれる。
彼女が俺の腕を引いている──自分の方へ。
「やめなって……」
言葉で続けた抵抗。
けれど、伝わらなかった。
俺の言うことはいつも素直に聞いていた彼女なのに、今はなぜか聞こうとしない。
そしてとうとう思いっきり引かれ、バランスを崩した俺の身体が彼女にぶつかる。
そのまま、腕にぎゅっとしがみつくようにされた。
ふわっ、と彼女から漂う、微かな甘いにおい。
そして腕にあたっている柔らかな感触。
やばい──そう思った。