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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
その理由に納得した俺は、立ち上がって、汗の引いた身体に服を着た。
もう一枚タオルを借り、台所へ行ってそれを濡らす。
視界の端に映る桃は、もう見ない振りをした。
部屋に戻り、気を失ったままでいる彼女の身体を揺すれば、ゆっくりと目を開ける。
俺を不思議そうに見つめ、何度かまばたきを繰り返した。
まだ、夢見ているようなぼんやりとした目。
けれど時間を告げると、はっと我に返った様子で起き上がろうとする。
その姿から目を逸らした俺は彼女の服を拾い、手渡した。
受け取った彼女の背後に回り、さっき濡らしたタオルで身体を拭く。
びく、と一瞬震えたその反応に咄嗟に手を止めたものの、すぐに力の抜けた感覚がしたから、そのまま続けた。
背中を拭き終わると、彼女は振り向いて俺を見た。
どこか静かな目で、あとは自分で──そう言ってきたから、タオルを手渡してベッドから降り、彼女に背を向けた。
勉強した形跡が今日はない机。
その天板を指先でなぞった。
背後の、彼女の気配。
それを痛いほど感じる。