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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
後ろ手にドアを閉めようとしたときだった。
「あ! 開けたままじゃだめ!?」
慌てたように俺を見て、言う。
真正面から目が合って、ぱあっとその顔に一瞬にして赤みがさした。
「その……だって今日、なんか暑いし……!」
あからさまなその目の逸らし方。
「……透子ちゃん」
思わず彼女の名前を呟けば、俺の視線を拒むように俯く。
──まあ……無理ないよな。
そっと、机へと近づいた。
構えるかのようにその身体を震わせた彼女に、小さな声で伝える。
「大丈夫?」
俯いたまま、こくんと頷いた彼女に
「……ん。なら授業始めるよ。いい?」
今度は普通のトーンで告げた。
とにかくいつもと同じように──せめて俺はそうしようと思った。
「はい」
視線をテキストに移した、その横顔。
まだ強張っているようには見えるものの、指先はちゃんと、俺の指示したページをめくる。
長い文章をわざとゆっくりと読みながら時折彼女を見た。
最初の緊張は次第に解けていくかのように、いつのまにか自然な表情へとそれは変わっていた。
それを目にした俺も安堵し、そのまま『いつもどおり』を心がけた指導は、彼女の気持ちをさらに落ち着かせていったようだった。