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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
懸念していた休憩中も、あの話にはお互い一言もふれないまま、他愛のない……そう、彼女のクラスの子のこととか、そんな話だけをして終わった。
そんな、俺たちのあいだには何もなかったかのように過ごした2時間。
終わったとき、彼女が言った。
──ありがとう先生、と。
「え?」
その意味を問うも、曖昧に笑う彼女。
今度は俺の目を、ちゃんと見ていた。
そして次の指導日からはもう、彼女の態度が崩れることはなかった。
もちろん、多少のぎこちなさはあった。
当然だろう。あんなことがあったのに、完璧に前と同じような態度なんて……やっぱり無理だろう。
普通を装っているつもりの俺の態度にだって、やはりどこか違うものを彼女は感じているかもしれない。
彼女があんなふうにまるっきり無邪気に俺を見ることはもうない。
あんなふうに俺に、俺についてを聞いてくることももう、ない。
俺に二度目をねだることもなく。
あのとき俺とした約束を、本当に守り通そうと。
ちゃんと『生徒』をやり通そうとしていた。
そのかわり。
彼女が時々見せるようになったのは、どこか憂いを帯びたような目。
……もちろん気づかない振りをした。ずっと。
そう、彼女は結局、最後までそんなふうだったんだ────。