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水蜜桃の願い
第3章 記憶の中の彼女
そして。
やがて、彼女が口にした言葉は。
「……忘れないで」
その、一言だった。
「私のこと忘れないで、先生」
そっと、伸ばされてきた指先。
「あの秘密……ずっと覚えててね」
そのまま袖を、くっ……と少しだけ引かれて。
──何それ。
頭が混乱した。
だって……そんなんでいいわけ?
それが『ご褒美』になるの?
……そんなことが?
見下ろす、彼女の俯いた顔。
睫毛が微かに震えている。
「……分かった」
無意識のうちに口から出ていた、その言葉。
ほっとしたように息をそっと吐く彼女。
──本当に、この子はどうしてこんなに。
また、胸が軋んだ。
──俺なんかに、なんでここまで。
息が少しだけ詰まったような感覚に陥る。
その苦しさは、はじめて味わうものだった。