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水蜜桃の願い
第3章  記憶の中の彼女


──好きな人、か。


結局俺はそれからも誰かと付き合うことはなかった。

一度ごたごたに巻き込まれてからは身体だけの関係を始めるのも慎重になり、女っ気のない日々をしばらく過ごしたこともある。
それはそれで気楽だったけれど。


……彼女のことはよく思い出していた。


家庭教師をやめたときはそれこそ毎日のように考えた。
ふとしたときに浮かんでくるのは彼女のことばかりだった。

時が経つにつれてその頻度は少なくなってはいったものの、それでもやっぱり街で女子高生を見かけたときは、指導中の彼女の姿を。

女を抱いているときは、彼女としたあの一度だけのセックスを。

身体だけという約束で関係を持った相手に付き合ってとしつこく迫られたときは──あの健気に守られた約束を。


そんなふうに、不意に。
けれども、確かに。


『忘れないで』
『ずっと覚えててね』

その約束を、まるで無意識に守ろうとでもしているかのように。


──そんな、年月だった。



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